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不眠症の問題について

不眠をめぐる問題について考えてみましょう。

 

不眠の苦しさは不眠の人にしかわかりません。十分自然に眠れる方は、たぶん、幸せな方なのです。その場合、体質的に眠れる習慣があるから、不眠の苦しさやこわさを理解できないのだと思います。眠れる人は「気軽に薬を使うな」とか「気持ち次第だ」などと、とくとくと語るようです。それにより、不眠のため薬を使われる方などは、自分が責められているようで、ずいぶん肩身が狭くなります。

 

不眠は、疲労によって、臓器としての脳の活動を低下させます。活動が低下すると、脳から発せられる理性の活動も低下し、ネガティブな思考しか生まれません。不眠などの脳の活動を低下させる要因を排除できれば、余裕のあるポジティブな理性の活動が生まれます。

 

「薬を使うとやめられなくなるのではないか」と心配する方も多いですが、そうした強い心配を持つ方は、逆にほぼ確実に薬をやめられます。皮肉ですが、「心配のために薬を飲んだ不安」で神経が昂り眠れなくなるので、薬を飲まないほうが安心して眠れるようになるのです。

薬よりも意志のほうが強いと思っていいと思います。

 

不眠症になる方の多くは、昔からの過剰な努力や短時間睡眠で長時間の労働の方、また、考えすぎる方に多いです。

睡眠は飛行機の着陸と同じで、覚醒度が下がることで着陸、睡眠に入ります。

無理な労働などで、眠気と戦って睡眠を覚醒させる習慣をつけてしまうと、眠気と戦ってしまい着陸できず、かえって覚醒してしまいます。寝るときに眠気を覚まそうとする逆の意識が自然に働き、眠れないようです。時に不安性障害に似た、睡眠恐怖症と呼ぶべき状態になる方もいます。

 

不眠の夜は長いです。さまざまにいやなことばかりが浮かんできます。脳の働きが疲れてネガティブになるからです。不眠の夜は長く、しかも翌日も寝不足で頭が十分に働きません。

ボーッとして集中できません。通常は睡眠により疲労を回復して、細胞をリフレッシュしていくのですが、それができません。眠れぬ日には時間が経つのも早いです。何も進まないのに時間が経っていきます。

また、当然、心配事があると眠れなくなります。通常はぐっすり眠れる方でも、何か不安の種が重なると、当然神経が昂り、眠れなくなり、眠れない恐怖に苦しめられます。

老人の方の不眠は、時に興奮を伴うせん妄や意識の朦朧状態をきたします。

 

寝るための方法にいろいろ提案されているようですが、あまり効果のある方法は少ないといえます。

ただ、寝る30分以上前から、作業などをやめて、ゆったりと神経活動を減らし、飛行機の着陸のように少しずつ神経を休め、「寝る体制づくり」をすることは役に立つようです。また、冬眠と同じように、早めにお風呂に入り、睡眠時の体温が低下している状態のほうが寝やすいようです。

さらに、運動や労働も、運動ニューロンの活動によるその筋肉疲労がうまく神経を休めさせてくれると、ゆっくり眠れます。しかし、無理な労働や運動で神経を高ぶらせて活動すると、逆に神経が覚醒し、体は疲れているけれども眠れなくなります。このタイプの不眠の方も過剰労働の方に多いようです。

 

「眠りの薬を使うと早くボケる」と批判する意見の方も多いですが、実際には、不眠はアルツハイマー型認知症の発症を5倍近く多くします。夜間の睡眠が、アルツハイマーの原因物質であるたんぱく質の排出に必要だからです。また、不眠による臓器の疲弊度を考えると不眠は万病のもとであり、良眠は長生きの基本になります。薬としては鎮痛剤などのほうが体にはるかに悪いと思います。

不眠で薬が多くなり、ボーッとする方はいますが、認知症を発症しているわけではありません。

それは薬の量や種類の調整の問題です。早く調整してもらうことが大事です。

確かに外来でも頑固な不眠の方が多くいらっしゃいます。通常の薬の量では眠れないのです。

睡眠をとるために量や種類も多くなります。眠るためには仕方がないことだと思います。

ただ、睡眠薬などは昔と比べてずいぶん改良され、安全性も増し、睡眠のホルモン利用したりするタイプもあります。特に特殊な作用の薬ではありませんし、睡眠薬には認知症を発症させるほどの力も作用もありません。薬としての作用が違うだけで、通常の内科薬と同じです。また、薬があるだけで安心できるという心理効果もあります。

 

通院していて不眠症を併発している方は数多くいらっしゃいます。

逆に不眠、興奮を伴わない精神疾患は「ない」と断言してもよいと思います。

心配事や悩み、不安、パニック障害、うつ病、心的外傷、家族の死や離別などのストレス疾患のすべてで、不眠を伴います。生きていくことの裏側といえます。

さまざまな神経の働きは、それぞれ亢進して高ぶるか、ダウンするかの二種類しかありません。精神疾患では、基本的にすべて神経が高ぶる方向の反応が出ます。高ぶると不眠が生じます。強い不眠症の方の不眠の薬の多くは、睡眠薬ではなく、神経を鎮静するための精神薬や抗うつ剤の併用です。確かに病的に不眠の方がいて、かなり神経を鎮めないと眠れない方もいます。

 

病気で神経の活動がダウンするのはうつ病だけです。しかし、うつ病でも不安や悩みで二次的に他の神経系が亢進してくる結果、全体として神経が高ぶり、それが強い不眠となります。

 

精神科の治療でも神経の高ぶりや不眠対策が最初に必要な必須のテーマです。

初めに不眠が改善すれば、脳の働きもよくなり、理性がうまく使えるので、多くの精神症状の改善に役立ちます。

 

良眠の方は十分幸せですから、それに満足し、不眠の問題に関して、あまり、不眠で苦しむ人を追い詰めないようにしてください。

 

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診断名についての問題:うつ状態とうつ病の違いなど

1.診断書などにおいて診断名を「うつ病」ではなく「うつ状態」などと状態像で書くことが多いのです。すると診察室で患者さんから「うつ状態とうつ病は違うのですか?」とよく聞かれることがあります。

 

今回は診断名によく使われる「うつ状態」と「うつ病」の違いを中心に説明します。

診断の問題は難しいので長くなりますが、一般論から述べていきます。

 

まず、病名や状態像とは何でしょうか。

病名(疾患単位)とは本来、治療法や今後の見通し、原因や予後を含んだ統一性のある基準から成り立ちます。一方、状態像診断は、「表面に現れる症状のまとめ」です。現在ある多くの症状の中で、中心となる症状をまとめて簡潔に表現したものです。

 

現在の診断名はどのようにして決まるのでしょうか。通常、ICD10やDSM3などの「診断学の本」で決定される「診断名」を指します。この診断学の本の特徴は、「診断名」は主に、病気を特定の症状と、その持続期間から病名を選んで決定することにあります。病気の原因、経過には触れません。ICDにおける診断名とは、簡単に言えば「博物学的な」病気の分類学です。そのため、こうした本は「操作的診断」とか「分類的診断」とも呼ばれています。ただ、内容は普遍的なので、世界的な区域での病名の統一や、研究の標準化に大きく貢献しました。

 

しかし、ICDなどの診断学の問題は、古典的にすでに基準のある病名(うつ病、統合失調症、躁うつ病、発達障害、人格障害など)と、症状をとらえるのみの「状態像」による診断名(不安性障害、強迫性障害、適応障害、重症ストレス障害など)が同列に混在していることです。

 

現在の診断学では、例えば、「不安」を呈する一定の症状が中心にあれば、「不安性障害」であり、会社や学校に行けなければ、ストレス反応としての「適応障害」と診断されます(ただ、この適応障害もストレス性の原因に基づくのですが、しかも6か月という使用期間があるので、期間を過ぎれば変更する必要があります)。

 

ICD診断名の選択は簡単ですが、診断名が治療上大事なのは症状を引き起こす原因、経過にあるといえます。「操作的診断」には、上記のように、単に現在の症状をまとめて確認し追認するだけの病名があります。

その意味では、先ほど述べたようにこうした病名は予後や見通しのしっかりした独立した病名としてとらえるよりも症状をまとめた「状態像」診断と考えていいと思います。

 

「状態像診断」の何が問題でしょうか。これは内科でも同様の場合が多くあります。

「学校に行けない」と訴えて内科を受診すれば、「起立性調節性障害」と診断されます(精神科的には自律神経失調症の一種かと思います)。

起床時、血圧が低いこと、覚醒度が低いことを意味するのですが、家族はその身体的病気が原因で学校に行けないと考えてしまいます。これは、明らかに順番が逆で、「何らかの原因で学校に行けなくなる」→「結果的に本人も焦りや苦しさがあるので、二次的に自律神経のバランスが崩れる」→「その症状が起立性低血圧」で、不登校の原因ではなく、結果としての症状と考えるべきなのです。

 

同じように、実際に学校に行けない場合、精神科では「適応障害」と診断される場合が多いです。実際は「何が不登校の原因か」が問題になるでしょうが、「適応障害」という病名のみでは、受け取り方によっては本人の素因に何らかの責任があるようにも聞こえてしまいます。また、適応障害もその定義は「ストレス障害の結果の症状」なのですから、治療上、「ストレス原因そのものの解明」がさらに必要になります。

 

学校に行けない場合、原因は、友人からのいじめ、仲間外れ、親の過干渉、あるいは無関心家庭内での対立、本人の過敏性、勉強の重圧、対人恐怖、思春期の自意識過剰など理由は多岐にわたります。適応障害という病名では原因の説明になりません。また、今後の予後の見通しや治療法を示すものでもありません。やはりこれは表面的な「状態像」による診断名と考えるべきです。

 

さらに、問題を深めると、通常の診断の際にも混乱があります。実際の臨床での症状は状態が複合している場合が多いことが関係します。

 

例えば、職場での出社不能、出社恐怖、出社拒否を考えてみます。

職場で、やや人付き合いが苦手の人が、仲間から孤立したり、疲れやすくオーバーワークで疲弊したり、上司からパワハラ的な冷たい態度をとられるなど複合的要素があると、不眠、不安、恐怖、抑うつ、トラウマ、パニック発作、動悸、頭痛、腹痛などの多彩な症状を呈する場合が多くあります。

症状が多彩であれば、主症状が問題になりますが、症状からは不眠症、不安性障害、適応障害、自律神経失調症、心的外傷障害、転換性障害、人格障害などの多くの状態像の病名が当てはまります。

どれか一つに決めることが困難な場合が実は多いのです。

 

ここで問題をまとめると人間の精神には原因、過去からの経過などの複雑さがあり適当な診断基準を満たさない症状の方や症状が多岐にわたる場合の方が多いということです。

以前のDSMではそうした欠点を是正するために、症状のみならず多軸診断という形で、性格傾向や個人の歴史を加味して、総合的に病名を診断する方法を採用していたのですが、煩雑になりあまり使われなくなったようです。

 

ですから、患者さんの側では診断名にあまりこだわらず、何が起こっているのか、原因や予後を含めて総合的に理解、把握することがすること、さらにはそうした説明が実は診断名より大事なのです。

 

次に、診断名があまり有効でない、あるいは、原因や経過に関して調べる必要がある場合です。

仮の診断として原因をつけた状態像診断という形を利用したほうがわかりやすい場合があります「いじめが原因の適応障害」「不安定な家庭環境による適応障害」「過敏性の高いことによる適応障害」など、原因を付加するだけでもだいぶイメージができます。

 

ICDやDSMの診断学の出る以前の診断(約30年前)では、「状態像診断」という診断がよくありました。

これは、精神の状態を見てそのまま記載するやり方です。当時から状態像診断は「主に病名診断にうまく分類できない」あるいは「適当な病名を選ぶことが難しい場合や、多岐にわたる精神状態がみられる」などで診断が確定できない場合などによく使われました。状態像診断は病名よりも幅が広く、むしろ病状がわかりやすいので使いやすいものもありました。

例えば、昔はうつ病を区別して「荷下ろしうつ病」とか「神経症性うつ病」「境界型うつ病」「慢性疲労性うつ病」などの原因を含めて診断したものです。

うつ状態という言葉もこの頃のものです。ICDの診断にはうつ状態という言葉はありません。

 

2.上記を参考に、ここで本題に戻り、なぜ「うつ病」ではなく「うつ状態」と状態像で病名を記載するのでしょうか。「うつ」という言葉の多様性を含めて、もう一度見直しておく必要がある問題なのです。

 

「うつ」という言葉の中には、程度の差はあれ、気分の落ち込み、憂鬱感、意欲の低下などの症状が含まれます。「うつ」という言葉には病名としての「うつ病」の意味と「抑うつ的症状」を呈しているという二つの意味が含まれています。しかもこのうつ症状は、不安性障害や強迫性障害、統合失調症、心的外傷後遺障害などあらゆる疾患に合併します。うつ症状の見られない精神疾患はほとんどないといえます。

ですから、「うつ状態」という言葉による診断にはとりあえず、「うつの状態を改善し、それから原因となる病気の治療を考えましょう」という意味合いが強い診断名なのです。

 

一方うつ病は「固定した」病気です。

「うつ病」という診断の場合、基本的にこれは脳の神経の病気(原因不明のセロトニンの減少)を指します。病気として改善には一定の時間を要し、一連の症状の経過があり、薬物療法などが必ず必要になります。治るまで数週間から数か月、時に半年を要します。治りがけの希死念慮、自殺企図に注意しろとよく言われたものです。

 

うつ病は神経の病気ですから一定の症状、経過、予後が必ず見られました(最近うつ病の軽症化が叫ばれています。実際軽症化しているといえますが、本当のうつ病そのものかは問題です)。

 

「うつ状態」の場合を見てみましょう。

例えば家族の死、交通事故、経済的損失、恋人との別れ、過労、パワハラ、対立など様々なストレス、将来への不安などの負荷があると、だれでも意欲が低下し、気分も「抑うつ的」になります。この場合、原因は割とはっきり存在していて、しかも症状としてうつの症状が強くみられるのです。おそらくセロトニンの分泌が圧迫されている状況といえます。ただ、原因が解決すれば改善する可能性の高い「うつの状態」です。定型的な「うつ病」の自然経過とは異なります。うつ状態は、例えば「会社などで休職すると途端に一時改善するが、また複職すると再燃する」など、状況に依存している場合もみられます。これは心的外傷の場合に多く見られます。

抑うつ症状にも少量の抗うつ剤はよく利きます。この場合ストレスでおそらく神経が圧迫されていると考えるのが妥当です。

(また、先ほど述べたように「抑うつ症状」はほかにも不安性障害や心的外傷、強迫症、慢性疲労などにも他の精神疾患にも合併します。うつ症状と抑うつ症状は意味は同じです。文脈でうつを強調したいときに抑うつ症状と記載する場合が多いようです。およそ精神疾患で「うつの症状」を合併しない精神疾患はほとんどないといってもよいと思います。)

 

実際 抑うつ症状は幅が広いのです。

 

結果的に、診断書で細かい診断が難しい場合、あるいは診断名がうまく当てはまらない場合なども「うつ状態」という仮の診断名として活用し、経過や原因、様子をこれから見ていく場合が多いです。私は時にカッコ付で(慢性疲労)(心的外傷)(不安性障害)などと原因などを補充して診断名をつける場合が多いです。

 

また、実際には職場ではオーバーワークか、パワハラ類似のものによるうつ状態が原因のほとんどですが、そうしたことはあまり診断名にかけません。せいぜい慢性疲労などとカッコに入れるぐらいです。

ただ、繰り返しになりますが方針としてはうつの症状を改善しながら、問題を明確にして改善していくということです。

 

このように、定型的うつ病と分けて「抑うつ症状」が中心の病状を「うつ状態」と呼んでいるのです。時に「うつ病」か「うつ状態」か明確な判断は難しい場合もあります。確かにうつ状態の中に本当のうつ病の患者が入っている可能性はありますが、その時点で再度判断すればよいのです。

 

「うつ状態」も症状は表面的にうつ病に似ています。不眠、食欲の低下、抑うつ気分、意欲低下などがみられます。

 

「うつ状態」はストレス性の疾患が原因の場合が多いので、ストレス原因の場所や人と離れ、ゆっくりした休養が大事です。会社での過労が原因であれば休職して休むことが大事です。また、パワハラでも会社を休んでトラブルの相手と顔を合わせないことも大事です。

家で休み、原因から離れれば、家では短期間で次第に体調もよく元気になれます。

気分転換の活動も必要です。

これは、家で長期間、休養中でも絶対安静の必要なうつ病の症状との違いです。

(ただし、「うつ状態」でも性格や原因によって症状が長引く場合も多いです。)

ただ、「うつ状態」は家では改善しても、会社に近づくと悪化する(自律神経の症状が多いです)傾向が強くみられます(トラウマと似ています)。

そのため、ストレス源の何らかの改善と、休養の延長が必要な場合が多いといえます。

 

「うつ状態」は、気分転換、考え方、休養や、リハビリが大事です。それが治療方針になります。

「うつ病」は安静と薬物療法です。無理をしないで、一定期間の絶対的休養とその後の少しずつのリハビリが必要になります。

 

ちなみに古典的な状態像診断には、ほかに、朦朧状態、錯乱状態、解離状態、幻覚妄想状態などの診断があります。

この場合、病気の原因がはっきりせず、診断が確定できないため、時間をかけて診断をつけていく前段階という意味合いが強いとも言えます。

確定した病名に達する情報の無い場合の仮の診断の場合もあります。

 

長くなりましたが、元に戻して、「うつ状態」と「うつ病」の病名の違い、治療の違いが多少わかっていただけると幸いです。

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高齢化と認知症について 第3章:精神と認知症について

物忘れ、失見当(見当識が失われる)などが現れると、すぐに認知症が疑われますが、認知症にも2種類があります。次の二つのことを分けてください。

「認知症」と「仮性認知症(うつ病や、せん妄(意識の朦朧や興奮)、孤独感からの不安)」の違いです。

 

認知症は脳の器質的変化で、血管の圧迫死(アルツハイマー病)や動脈硬化による血流の不全(脳梗塞)から脳の一部が壊死する病気です。病気ですから本人に自覚はなく、むしろ、物忘れを隠そうとしたり、自分でも不自然なことが起こる(物忘れのために)ため、邪推し、妄想化するなどの症状がみられます。本人は「忘れること自体がわからない」のです。病気として自然に進行します。

 

仮性認知症は違います。孤独感の不安や寂しさからの感情の興奮がみられ、不眠や夜間せん妄などの症状として現れます。強い孤独感は理性を麻痺させます。

麻痺して、生きていることがわからなくなり、症状に波はありますが、突然せん妄状態(意識の朦朧や興奮)などで発症します。隣人に頻回の電話をかけるなど、迷惑行為、騒がしさが目立ちます。こうした場合は一人暮らしの例がほとんどです。基本は、寂しさからの孤独感と、二次的錯乱です。意識の障害による朦朧ですから、物忘れや失見当なども目立ちます。心理検査の点数も当然悪いです。

周囲からは当然のごとく認知症の発症と判断されます。

しかし、その後救済策として、施設やデイサービスに入所などの対策をすると、1週間から半月で症状が改善します。普通の状態に戻ります。

 

本物の認知症は不可逆的変化で、基本的に症状そのものが改善することはありません(安心して和らぐことはありますが)。

入所したり、コミュニケーションの回復などで症状が改善するのは、本物の認知症ではなかったからです。これが仮性認知症の特徴です。

仮性認知症の人は、身体は老化し、友人も減り、将来への不安は強まります。ただ精神は老化しないので、結果的に孤独感や不安感は強まります。皮肉にも身体と同じように精神も老化するのであれば、判断力も落ちて、それほど錯乱するような実存的不安は感じないでしょう。

真正の認知症と仮性の認知症を分けるのに参考になるのは、一人暮らしか、家族との同居かなどの環境の特徴です。一人暮らしで発症した場合、ほぼ仮性認知症と思われます。家族がいても認知症の症状が出るときには、真正の認知症であるとおおまかな検討をつけていいと思います。

ただし、夫を亡くした、など心のよりどころを失うと、家族がいても仮性認知がみられます。孤独感が増していくからです。

 

治療の問題に移りましょう。

認知症の人の世界は、物忘れから来る世界の変化への不安と恐怖です。

物忘れとは、突然物がなくなったり、時に不思議な場所から物が出てきたりすることです。失見当とは場所や時間がわからなくなることです。精神の迷いの世界です。また尿失禁など恥ずかしいいことが起こります。尿失禁では本人は恥ずかしいから汚物を隠そうとします。それでかえって問題がこじれます。他人には嫌がらせに映るからです。

 

認知症の人はすべて何もわからないのでしょうか。わかることがあります。周囲の人間の怒りや優しさなどの感情です。赤ちゃんの感じる世界といっていいでしょう。

よく年をとり、赤いちゃんちゃんこなどを着て微笑んでいる老人がいます。

アルツハイマーの認知症は途中は症状が大変ですが、さらに進むと精神も退化して、赤ちゃんのごとく穏やかに生活していけます。

古来からの憧れの老人像とは、アルツハイマーの末期の老人の姿かもしれません。

自然な死を迎える生物の知恵なのでしょうか。

 

症状の悪い、中間の認知症の人の治療についてですが、恥の意識や不安の軽減が最大の治療の目標です。

尿失禁などをしても怒らないことです。さりげなく笑顔で接することです。

そうすることで、本人は恥ずかしくない、大丈夫なんだ、隠す必要がないんだ、と感じ安心します。

対応は確かに難しいですが、何か失敗しても、赤ちゃんの失敗に接するように暖かく接することです。

その感情は良いメッセージとして認知症の人にも伝わるのです。

 

総じて、認知症も含めた老化の防止に特効薬はありませんが、リハビリとしては精神機能、身体機能を使うことです。

特に他人との会話は、脳、耳、目、判断力、表情、心の躍動など様々な活動を伴い、脳の活性化に役立ちます。積極的にリハビリとして活用すべきです。笑える会話が特にいいようです。

同じように、ゲームでも小さな賭け事などにすると、感情が熱くなり、脳が活性化します。

 

このように考えてくると、我々の精神の老化はあまり進まないことを念頭に、何が正解かわかりませんが、将来、老化の苦悩は発生するものであり、日ごろから未来の死に対して考えたり、体が元気なうちにできる終活の準備は、早めに進めることが必要なようです。

 

 

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高齢化と認知症について 第2章:精神と身体の関係について

次の問題を考えてみましょう。精神と身体の関係です。

身体の能力が低下すると精神はどうなるのでしょうか。

例えば身体が老化すると、一緒に精神も老化するのでしょうか。

確かなことは、身体の能力の低下と精神(心の)能力の低下はパラレルではないことです。

むしろ不思議なことに、精神、心はあまり老化しないのです。

 

年をとっても元気な老人の方はたくさんいらっしゃいます。ただ運動能力の低下や物忘れはあります。

彼らに聞いてみると、ほとんどの方が、気持ちや精神年齢は30代ごろから変わりないと答えます。

これは何を意味するのでしょうか。「身体は老化するけれども精神は老化しない」と考えたほうがいいでしょう。

実際、身体は80代でも、精神は30代か40代のままと認識している人がほとんどです。

 

認知症の方の場合は、確かにはっきりしません。脳の病的な機能の低下で、心や人格が失われたように見えます。しかし後でも述べますが、認知症で脳の機能が退化しても、赤ちゃんの持つ自然な感情、感受性のような精神機能は残り、認知症の症状が進行すると、最後は穏やかな赤ちゃんのように素直に、無邪気になっていくようです。

 

精神は身体と違い老化しにくいといえます。衰えていかないのです。

そして時にこの精神と肉体の老化のアンバランスの問題が、老人の生きる苦痛、苦悩を生みます。

この問題の特徴が認知症にも現れます。

第3章に続きます。

 

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高齢化と認知症について 第1章:物忘れについて

今回は認知症の問題について考えてみます。

年をとれば脳の働きは落ちます。そして認知症になる、つまりボケるというというのは一般の方々の共通認識といえます。でもこのボケるというのは実際に何を意味するのでしょうか。また、年をとると人間は本当に皆ボケるのでしょうか。

 

確かに年をとると、50代でも、物覚えは悪くなり、なかなか思い出しにくくなります。「名前が思い出せない、顔は浮かぶけれども・・私もぼけてきたかな。」などという経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

物忘れが出ると、本人もですが、最初に家族が心配します。脳トレや厳しい見当識(今日は何年何月何日か、今いる所はどこかなど)の質問が飛び交います。そして、少し間違えると叱られます。「ボケたらどうするの」と質問と応答の繰り返し練習と、殺気立った雰囲気が生じやすくなります。本人は委縮します。間違えまいとして緊張して、ますます、間違いやすくなります。

これは、心療内科の受診時にもよく見られる光景です。

 

まず、物忘れを整理してみましょう。

物忘れには2種類があります。一つは、高齢化すると必然的に起こる記憶の整理棚の混乱です。脳の中にある記憶を整理する棚がしっかりしていれば、一度しまい込んで記憶したことをうまく取り出す、思い出すことができます。しかし、棚が混乱している乱雑であると、顔が浮かぶけれども名前が出ない、など脳の情報をうまく引き出せなくなります。突然思い出したりするのですが、記憶をうまくコントロールできなくなります。

 

これは病気ではありません。全員に起こる、単なる脳の機能の低下です。記憶の棚の混乱は、身体の筋力が落ちる、行動が遅くなることなどと同じ老化現象の一つなのです。大事なことは、記憶をする(記銘する)ことと、記憶を引きだすこと(想起)は別のことだということです。

覚えること(記銘)自体の障害が認知症なのです。想起の障害の場合の特徴は、本人がよく自分の物忘れを「自覚して」困っていることです。これは正常な反応なのです。

 

一方、本物の認知症は「覚えること」そのものができなくなります。記憶すること自体ができないのです。

また、記憶に関して、記憶の障害は、近い過去から始まります。今あったことは忘れるけれども、昔の記憶は脳の深いところにしっかり記憶されているので、よく覚えています。ですから、年齢を聞くのがひとつの目安になります。実際は「80歳」であっても、「70歳」と答えるとすれば、10年分は他の記憶も忘れていると思っていいと思います。

10歳以上違っていると、だいぶ症状は進行してきています。記憶が1、2年ずれている場合、認知症の始まりの時期と思ってもらっていいです。「自分の年齢がいくつなのかわからない」と答える頃にはだいぶ進行しています。

また、他に様々な記憶を問うと、「忘れた」と答える場合も多いです。一度覚えたつもりでもすぐに忘れ、むしろそんなことはしていない、聞いていないと言い張ります。

認知症は病識(病的な状態にある人が自分が病気であることを自認すること)がありません。

忘れることがわからないのです。「忘れることはありますか」と聞くと、むしろ否定的に答えたり、返答に窮して黙り込んだりします。時に、何とか切り抜けようとして嘘をつきます。

また、その場では「わかった」と返事をしてもその後忘れてしまいます。これで周囲との関係がこじれます。しかし本人には全く身に覚えがないことなのです。

 

ここで大事なことは、繰り返しになりますが、二つの現象―いわゆる「高齢化による想起力の低下に基づく物忘れ」と、「病気としての記銘力障害である物忘れ」である認知症を区別することが大事です。「二つの現象は同じではない」ということの理解です。両者の病理は全く違うからです。

 

人間は年をとると、高齢化のため、知的能力を含めた身体能力が低下します。これは、自然な運命で、誰にも逆らえない自然の摂理です。

老化による機能低下は、刺激の少なさや、楽しみの無さとなど、脳を使わないことも影響します、運動や会話、ゲーム、賭け事などは軽い楽しい脳トレで、脳への良い刺激を与えます。脳を活性化する工夫が必要です。

 

 

ひろせ こころのクリニック

999-3729 山形県東根市中央東2丁目6-71
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科目/ 対象症状・疾患

心療内科 不眠、身体痛、食欲不振、慢性的倦怠感、気分低下、過剰労働の疲れ、対人関係の不安、老年期の物忘れ、気分不安定 などこころと身体の関係についての症状
精神科 うつ病、不安性障害、認知症 など
診療時間
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ひろせ こころのクリニック

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