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心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について 第5章:トラウマの歴史的返還

ここで話を変えて、もとに述べたトラウマの歴史に触れます。

心的外傷の問題は、長い間、学問上ヒステリー症状との区別が混乱してきました。ヒステリー症状とは、フロイトが述べる如く「疾病利得」として愛情や同情を得ることを無意識の目標として、精神的ストレスが身体のまひや痛みなど身体の症状に代わる病気です。

心的外傷の痛みや、錯乱、フラッシュバックなどの症状も長くヒステリーの症状と思われてきました。多くの心的外傷の患者さんがヒステリーだと分類されてきました。そのため、概念、偏見を変えるために長い道のりの苦労がありました。しかし、古典的な原点をよく調べると、精神病理学の泰斗であるクレペリンが事故後遺症のヒステリーの障害を調べた研究で、落盤事故の後に、明らかに賠償要求のヒステリーとは全く異なる病態の一群の重症患者がいる、と明言しています。しかしそれ以上は議論は進みませんでした。フランスのジャネの研究などでも無意識下をさまよう心的外傷後遺症の記憶断片の概念が出るのですが、そうした心的外傷は認められませんでした。脚光を浴びるのが、極限状況で論証しようとした近年のカーディナーの第一次大戦の兵士の戦争神経症の研究や、ジュディスハーマンの戦争、暴力、拉致などの極限状態における被害者のトラウマの研究、さらにベトナム戦争の帰還兵の病状などがあり、やっと診断学の基本であるDSM-3の診断学でヒステリーと区別され、心的外傷後遺障害が公認されるようになりました。

症状として、過去が現在に侵入する恐怖、フラッシュバックや、過敏性などが主症状で同じですが、ただ、その後も主観的症状であるために起こる無用な乱用を避けることに注意が払われ、また最新のDSM-5の診断でも原因を限定して、戦争の後遺症や死への恐怖、暴力など、かなり範囲が厳しく限定されています。

訴訟社会のアメリカでは基準を緩めてしまうと障害認定が増え、混乱や訴訟が増えてしまうことも原因かと思われます。

ただ、繰り返しますが、そうした原因にこだわることなく、過敏性は国民性で異なるのですから、原因にあまりこだわらず、症状を大事にして、現実的に心的外傷のフラッシュバックなどの特異的症状がみられ、外傷の症状に苦しんでいるときには、積極的に心的外傷の診断をするべきだと思います。

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心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について 第4章:治療について

治療上の意味について考えてみましょう。治療には時間がかかります。トラウマの記憶自体が、「人間が生きるために忘れないもの」という安全装置だからでしょう。

トラウマの多くの人は何が起こっているかわからず、特に周辺群の人は自分を責めます。

そこで、不安にしろ、恐怖、フラッシュバックなどにおいても、それが恐怖に対する自然な反応のメカニズムであることの理解が大切です。それが本人を安心させます。そうした自己理解が、治療の第一歩です。

トラウマを「抑圧」で抑え込むのではなく、信頼できる人に少しずつ表現できるようになる暴露療法的考え方も大事です。

良き聞き手によって癒される場面が多いです。

トラウマ対策の薬の使い方も大事な要素です。

また、トラウマの乗り越え方が大事です。フラッシュバックも波とピークがあります。

そのピークを自覚してうまくやり過ごす工夫が必要です。長い時間フラッシュバックが続くのではありません。

トラウマに基づく、不安、恐怖、うつ気分なども、原点のトラウマが何か、の理解が必要です。

トラウマへの恐怖が二次的に症状を呈していることがわかると、自分なりの安心感が芽生え、トラウマと戦う余裕が生じます。自分を知ることなのです。

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心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について 第3章:心的外傷(トラウマ)の拡がりについて

心的外傷にはさらに、特に周辺群にみられる別の大きなテーマがあります。

短期間の強いトラウマや長期間のいじめなどによるトラウマでは、本人なりに何とか順応して生活していこうとします。その時に取られる方法の一つが「抑圧」です。忘れる努力であり、意識的に抑え込むことです。

何事もなかったかのように行動しようとしますが、傷跡、トラウマは消えません。必ずほかにひずみが出ます。

前の晩には「明日は学校に行く」と決意しながら朝になると体が動かず、起きられないという不登校の子供さんなどにもみられます。

本人は常に学校でのトラウマを抑え込んでいるので、無意識にもトラウマの対象を避けようという行動をします。長年抑え込まれたトラウマは残り続けるのです。

その結果、例えばトラウマのある職場に近づくと無意識に拒否反応が起こり、理由もなく休んだり、起床できない、吐き気、頭痛、動悸が生じる、現場に近づくとすくんでしまうなど、強い不安発作がみられるなどの反応が起こりやすくなります。

急激に起こるために周囲は理解できないので、「本人のわがまま」か、「意欲がない」などの否定的評価が生じます。

また家庭内での例えば「嫁姑」などの人間関係でのトラウマなどでは、トラウマのある側の態度に非常に薄情で冷淡に見える行動が多く見受けられます。

本人に自覚はありません。周囲から「冷たい冷淡な人」、「情の薄い人」などととらえられやすい傾向があります。

こうした冷淡さは全く性格の問題ではありません。「抑圧」の中では無意識にせよトラウマの対象に近づくと自動的に起こる(時に恨みや憎しみを伴う)情動麻痺のような防衛反応の一種といえます。

また、あまり語られていませんが、さらに別の大きな問題があります。

トラウマを長く我慢してくると、その後、自分のやりたいことができなくなるという別の弊害が生じます。

昔は絵を描くのが好きだったのにトラウマ後から描けない、また、運動が好きなのに必要時に動きたくない、など、やりたいこと、好きなことになぜかブレーキがかかり実行できなくなります。

本人もその理由に気づきませんし、意識に上りません。

トラウマの抑圧の努力の裏返しとしての、意志の発動の障害ともいえると思います。

 

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心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について 第2章:外来での症例について

まず典型例から見てみます。外来では、交通事故の後遺症、パワハラ、いじめ、暴言などの恐怖体験、時にオーバーワークの疲れ、仲間はずれなどに基づく後遺障害の方は大変多くいらっしゃいます。

そうした場合を症状として見ると、厳しい④の解釈以外の診断基準を十分満たしています。

現場や加害者の人間に近づくと、恐怖心で身がすくむ、また、吐き気、フラッシュバック、悪夢などの典型的な症状が発生し苦しみます。そして被害の現場に近づくことが全く困難になります。

これは心的外傷の中核群です。

また、その周辺に症状は軽症ではありますが、HSP的家庭内での対立、叱責、冗談、人間関係での孤立、離婚、些細な一言など、小さな問題が強い心的外傷体験、トラウマの原因になる場合が多くあります。それは後まで強い④以外のトラウマ体験として長引く場合が多いのです。

彼らは心的外傷、トラウマの恐怖の体験から、「また無視されたらどうしよう」「同じ失敗をしたらどうしよう」などと次の社会でも過度におびえています。また、実際に行動しようとしても体が動かなくなります。これは、個人の体質、過敏性の問題が強く影響しているかもしれません。しかし、そうした傷つきやすい、過敏体質の方にとって些細なトラウマが大きな恐怖を作り、周辺症状ともいうべき心的外傷体験の方が増えるのもまた日本の特徴かもしれません。

原因としてのトラウマの恐怖性は個人で大きな差があることの理解が必要です。

心的外傷の問題は症状の存在期間が長いことですが、ただその時に、その外傷の現場では苦しみますが、現場を離れると症状は改善する方が多いといえます。

ですから、「わざとではないか」と誤解されやすい方も多くみられます。

このテーマはあとで古典的に言われているヒステリーの問題で触れたいと思います。

さらに実例で場面ごとに具体例を整理してみましょう。

外来の患者さんでは、「職場で怒鳴られた」「厳しく言われた」など会社での恐怖の体験がトラウマを作る場合が一番多いです。

年齢や回数に限りません。怒鳴られた、注意された、などのショックがその後、強いトラウマとなり頭に焼き付きます。そして同じ場面や当該の人に出会うと恐怖のシーンが警報装置のように頭から吹き出し、フラッシュバック(恐怖の再現)が起こります。

恐怖とともにうつ気分、不安感や動悸、冷や汗、緊張などの自律神経の症状も見られます。

トラウマは頭の横側、感情の記憶である側頭葉の偏桃体の部分から発します。

前頭葉ではないため、理性でのコントロールが不可能です。

多分に、トラウマの記憶は人間を危機に陥らせないために危険を避け、警報を発する、HSPと同じように生物の本能に由来している大事な保護装置なのかもしれません。

会社での叱責、暴言による威嚇がトラウマとなり出社できない、出社してもその人に会うとフラッシュバックと恐怖で動けなくなります。

解決策は2つのみです。危険を避けるために配置転換で会わないようにするか、思い切って退職するか、あるいは上司当人が勤務場所を交代するかです。結局、絶対に遭遇しない安全保障が必要なのです。

これまでトラウマによる休職や、結果としての多くの退職、転職者を見てきました。

それ以外には、ほかには解決策、方法がない深刻な問題なのです。

パワハラは若年の被害者が多いようです。トラウマの加害者は中高年が多いのですが、彼らには悪意はないのかもしれません。ただ、自分の言葉、行動が相手にどういう影響を与えるか気づかないようです。中には常習的なパワハラの加害者がいる結果、その会社では常に若い人が辞めていき、慢性的な人手不足が続く職場も多くあります。これは会社にとっても存続の危機となる大きな損失です。経営者の方の強い自覚を促したいです。

ただ、この2、3年、パワハラ、トラウマに対する会社の対応が変わってきつつあります。

労働法の改革もあると思いますが、労災の適用やパワハラへの対応、職場復帰への支援など、以前にはない支援の工夫が見られます。5年前にはあり得なった光景かと思います。

政策が意味を持つことを初めて知りました。

「新型うつ」と呼ばれるうつ病があります。会社には行けないが、外では自由に行動できるうつ病の人を指すようです。これも会社でのトラウマがあり、心的外傷により職場には行けないけれども、家庭内や日常生活は可能、という心的外傷の例と考えたほうが理解しやすいと思います。これなどはうつの範疇でとらえるのではなく、心的外傷の視点から見ると不思議な話ではありません。

会社以外で強い心的外傷が多いのは、交通事故の被害者です。追突や事故で、身体的痛みや恐怖心が続きます。特に、運転が怖い、常に後ろから追突されるのでは、という恐怖から、運転できない、遠方に行けない、などの後遺症がみられます。運転は日常的な活動なので回避することが難しいようです。症状が長引きやすく数年間以上も続きます。理解されませんが心的外傷の怖さです。

また、長期的外傷体験の継続として、いじめ、仲間外れなどの行動が心的外傷を作ります。

不登校などの原因になります。また、その時を超えても、その後将来にわたり、対人恐怖や警戒心など、生きにくさを作り、時に人間関係の不良が重なり、フラッシュバックが生涯持続する、慢性化した問題を生じる場合があります。

これは幼児期の家庭内での機能不全家庭などでのトラウマが将来にわたり影響を与える例と重なります。

周辺症状として軽症ですが、HSPによる家庭内過敏性も社会での過敏性につながり、人間関係や近所でのトラブル、軽いつまずきや失敗、離婚などのトラブルが心的外傷体験となり、トラウマを作る場合が多いことにも注意が必要です。

家庭のトラブルや学校のいじめなどの問題が尾を引きやすいことに気をつけてください。

 

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心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について 第1章:心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について考える

心的外傷、トラウマの問題という言葉は日常的に使われる言葉になっています。
多くの方が言葉のイメージやだいたいの定義は理解されていると思います。
また、精神科の外来などでも、受診頻度が多く、時に一番難しい、時間を要する患者さんは心的外傷の患者さんともいえます。

このように、重要な病気、概念でありながら、外来でうつ病やパニック障害や不安性障害と比べても、診断などの医学的認知度が極めて低いという現実があります。
これはなぜでしょうか。

そうした疑問を踏まえつつ、少し踏み込んで心的外傷(トラウマ)の問題を考えていきたいと思います。

心的外傷の診断は、診断学上、現在の症状の確認が中心ですので比較的容易です。診断学の本であるICD-10を参考にします。
使われている言葉は難しいかもしれませんが、内容は平易です。
①無感覚と情動麻痺。他社からの孤立(直面すると動けなくなること)。
②周囲への鈍感、トラウマを想起させる活動や状況の回避(対象から逃げることです)。
③フラッシュバックなどの侵入的回想、悪夢(いやな場面を想起します)。
④原因として自然災害、激しい事故、変死、拷問、テロリズム、死の恐怖、犯罪の犠牲などの過酷な体験(原因の重度さです)。
⑤過敏性などの素因は診断に影響を与えないと考えます。
⑥元の原因を想起、思い起こされる体験をすると、恐怖やパニック、自律神経症状、驚愕、不眠、不安、抑うつの症状が発生する(合併する症状です)。

注目はこの④にあります。④の原因の項目の適応を除くと、上記の患者さんは外来でよく頻回にみられます。

心的外傷をめぐる混乱は昔からありました。つまり心的外傷後遺障害は、被害者が多くいて、しかも診断は容易であるのに、歴史的には混乱し続けてきた概念といえます。理由の一つは、精神医学の二大潮流である精神分析学において、フロイトがヒステリーとの鑑別上、心的外傷に否定的であったこと、また心的外傷という概念そのものがもう一方の潮流である精神病理学(統合失調症中心です)において全く研究対象ではなかったことが大きな原因です。

多くはヒステリーと診断され、心的外傷の概念は否定されてきたといえます。この壁を乗り越えるために多くの研究者は戦争などの極限の状態での病状の調査を行い、何とか近年認知されてきたというべきです。こうした歴史的重要な問題点はあとで述べます。

また別の問題があります。心的外傷の症状は自分の主観的体験が基準ですので、客観性に乏しい部分があり、時には心的外傷の範囲が拡大しやすい傾向があります。特に研究が、極限の精神状況を対象に進んできたことや、また、訴訟社会のアメリカでは精神障害としての心的外傷の範囲の拡大を防ぐことも大事で、新しい診断学のDSM-5などでも④の項目を強調してなるべく心的外傷の範囲を制限しようとしています。範囲を狭めようとするのは、誤診の減少という名目のためよりは、医療費、帰還兵の被害、訴訟対策などのいろいろな補償的、経済的出費を防ぐ理由があると考えてもいいと思われます。

こうしたことが、積極的に心的外傷の診断を行う精神的な壁になってきたといえるでしょう。

では、日本において心的外傷の現実はどうでしょうか。

実際に外来で多くの患者さんを診ていると、重症の方は当然として、軽症も含めて上記の心的外傷の症状で苦しんでいる多くの患者さんがいます。多くは④の解釈を除けば、他に項目に当てはまります。④を除けば、診断基準通りに心的外傷後遺症ととらえられ、しかもそうした判断、理解のもとで治療のできる多くの患者さんがいることに気づかされます。

ただ、症状が軽症の場合も多く、彼らは周辺群と呼ぶべきかもしれません。

時に心的外傷のトラウマから二次的に⑥のように不安発作などの症状へ広がる場合も多くみられます。一見、診断的に、不安障害やうつ状態、適応障害に分類される症状の人でもその病理の裏側に心的外傷体験の蓄積の多い方がたくさんいます。

これは問題となる④の症状の判断は何が大事でしょうか。恐怖や恥、傷つきには文化の差異はあると思います。特に日本社会のように、資質としてHSP的過敏性の高さが原因のトラウマや、仲間はずれなどでの、集団主義社会での傷つきの体験は、外見的には軽度に見えるけれども本人には予想より強い死や恐怖の体験となり、心的外傷の発生リスクを高めているといえます。死に近い体験や恐怖など④の現実的解釈には日本流の幅が必要といえるのです。④をどう理解するかが大きなカギであることをご理解ください。

 

 

 

 

ひろせ こころのクリニック

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