2023年11月11日
心的外傷(トラウマ)と心的外傷後遺障害(PTSD)について 第5章:トラウマの歴史的返還
ここで話を変えて、もとに述べたトラウマの歴史に触れます。
心的外傷の問題は、長い間、学問上ヒステリー症状との区別が混乱してきました。ヒステリー症状とは、フロイトが述べる如く「疾病利得」として愛情や同情を得ることを無意識の目標として、精神的ストレスが身体のまひや痛みなど身体の症状に代わる病気です。
心的外傷の痛みや、錯乱、フラッシュバックなどの症状も長くヒステリーの症状と思われてきました。多くの心的外傷の患者さんがヒステリーだと分類されてきました。そのため、概念、偏見を変えるために長い道のりの苦労がありました。しかし、古典的な原点をよく調べると、精神病理学の泰斗であるクレペリンが事故後遺症のヒステリーの障害を調べた研究で、落盤事故の後に、明らかに賠償要求のヒステリーとは全く異なる病態の一群の重症患者がいる、と明言しています。しかしそれ以上は議論は進みませんでした。フランスのジャネの研究などでも無意識下をさまよう心的外傷後遺症の記憶断片の概念が出るのですが、そうした心的外傷は認められませんでした。脚光を浴びるのが、極限状況で論証しようとした近年のカーディナーの第一次大戦の兵士の戦争神経症の研究や、ジュディスハーマンの戦争、暴力、拉致などの極限状態における被害者のトラウマの研究、さらにベトナム戦争の帰還兵の病状などがあり、やっと診断学の基本であるDSM-3の診断学でヒステリーと区別され、心的外傷後遺障害が公認されるようになりました。
症状として、過去が現在に侵入する恐怖、フラッシュバックや、過敏性などが主症状で同じですが、ただ、その後も主観的症状であるために起こる無用な乱用を避けることに注意が払われ、また最新のDSM-5の診断でも原因を限定して、戦争の後遺症や死への恐怖、暴力など、かなり範囲が厳しく限定されています。
訴訟社会のアメリカでは基準を緩めてしまうと障害認定が増え、混乱や訴訟が増えてしまうことも原因かと思われます。
ただ、繰り返しますが、そうした原因にこだわることなく、過敏性は国民性で異なるのですから、原因にあまりこだわらず、症状を大事にして、現実的に心的外傷のフラッシュバックなどの特異的症状がみられ、外傷の症状に苦しんでいるときには、積極的に心的外傷の診断をするべきだと思います。